「え、本当に?!」 藤井聡太と渡辺明の王位戦でまさかの千日手発生、副立会人も驚愕…現場のリアルな裏側


2024年上半期にNumberWebで多く読まれた記事ベスト5を発表します。スポーツ総合部門の第3位は、こちらの記事です!(初公開日 2024年7月12日、記事内の肩書は当時のものです)
7月6日から7日にかけて愛知県の徳川園で行われた第65期王位戦第1局。藤井聡太王位(七冠)と挑戦者の渡辺明九段の対局は、千日手による指し直しという予想外の展開に。現地取材した記者による詳細な観戦記をお届けします。(全3回の第1回/続編は#2、#3で)
大盤解説を務める高見泰地七段が、渡辺明九段が72手目を指した瞬間、「ええっ、マジですか」と驚きの声を上げました。このリアクションは、観客を盛り上げるためのパフォーマンスではなく、棋士としての本能的な反応でした。会場の中日ホールに集まった約600人の将棋ファンも、その瞬間、ざわめきを抑えきれませんでした。
この王位戦は2日間にわたって行われますが、2日目の午後になっても、両者の対局はスローペース。駒のぶつかり合いはほとんどなく、1日目の午後に歩を一つ取り合った程度でした。時刻は15時半を過ぎ、両者は我慢の一手を繰り出し続け、盤上の均衡は崩れることなく、時間だけが経過していきました。
渡辺九段が4二に下げた金を再び4三に上げる手を指した瞬間、高見七段は困惑しました。これは千日手を視野に入れた手でしたが、直前に高見七段は「渡辺九段は自分の指した手に意味を持たせる棋士」と評価していたため、この手には意外性を感じたのです。
渡辺九段は常に合理的な判断を下すトップ棋士として知られています。そのため、千日手を目指すにしても、4三に上げる駒は発展性のある銀のはず。金をわざわざ上げる手を選ぶはずがない、と高見七段は数分前に断言していたのです。しかし、その“らしくない”手を渡辺九段は選びました。
高見七段はその意図を読み解き、「千日手の方針は変わっていませんが、この金の動きには驚きました」とコメントしました。
藤井聡太王位もこの流れに応じ、角を再び斜めに進め、局面を元に戻します。こうして千日手が成立し、再び両者の激戦が始まることとなったのです。