「曙がキックボクシングジムに通っている」――その何気ない会話がテレビ史を変える大事件「曙太郎vs.ボブ・サップ」を引き起こした

21年前の2003年12月31日、日本のテレビ史に残る一日が訪れた。日本テレビ、TBS、フジテレビがそれぞれゴールデンタイムに格闘技を中継し、特にTBSが放映した「Dynamite!!」のメインイベント「曙太郎対ボブ・サップ」は大きな注目を集めた。試合が中継されていた23時00分から23時03分の4分間は、視聴率でNHK紅白歌合戦を上回るという驚きの結果を生んだ。この出来事以降、民放番組が紅白を超える視聴率を記録したことは一度もない。

当時、K-1の主要スポンサーであったアルゼ株式会社の代表取締役社長・岡田和生は「タイソン対サップは日本で実現させて欲しい。海外開催では支援できない」と発言し、マイク・タイソンのK-1参戦が実現しないことがほぼ確定した。

筆者はその真相を直接確認しようと岡田を追ったが、結局は見つけられなかった。2017年に社内闘争に敗れた岡田は、翌2018年に香港でカジノ関連の贈賄容疑で逮捕され、その後保釈。現在はマニラにいることがわかった。

この決定を受けて、谷川貞治はTBS本社の事業局に経過報告に出向くことになった。事業局は興行を買い取る部門であり、当時の事業局長は「戦後最大のフィクサー」として知られる児玉誉士夫の三男、児玉守弘だった。谷川が経緯を説明すると、児玉は「今年はやめよう」と言った。

「今年の大晦日は日テレもやることは私の耳にも入っている。タイソンという看板がなくなった今、無理して勝負する必要はない。今年は様子を見よう」というのがその理由だった。

谷川はこの意見に対して、「児玉さんとは考え方が根本的に違う」と感じた。というのも、当時のK-1の主力はボブ・サップであり、サップにどんな相手をぶつければ観客が集まり、視聴率が取れるかを考えなければならなかった。谷川は「サップの相手がタイソンならすごく面白いだろう」と考え、代わりに誰を相手にするかをすぐに考え始めた。

次に谷川はスポーツ局に向かい、担当プロデューサーの樋口潮と今後の方針を話し合うことに。そこで樋口は、「石井館長から連絡があって、話は聞いています」と話を切り出した。そして驚くべきことを口にした。

「館長が『ウチは大晦日から撤退します。その代わり、お正月の日テレの箱根駅伝の裏でやれませんか』と言ってきたんです。『格闘技駅伝』なんて言っていましたよ」と。

谷川は驚き、言葉を失った。昨日、石井和義に報告した際にはそのような話は一切なかったからだ。格闘技駅伝？ 何のことだ？

樋口は続けて、「でも、正月編成では別の“運動”も必要になりそうです。とりあえず、大晦日で考え直してみましょう」と提案した。

谷川はこの時、石井和義というプロモーターの巧妙さを再認識し、主導権を取り戻そうとしていることに気づく。谷川は強く決意し、心の中でこう言い聞かせた。

「館長に主導権は絶対に渡さない。今年の大晦日は、俺の手で実現させてみせる」

その決意の瞬間、谷川はある情報を耳にした。

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